post

混沌と創造性について(主に卒業生へ送る)

今年度はどんな一年だったでしょうか。個人的にはカオスな一年だったと感じています。

ここで言うカオスというのは,良いことも悪いことも次々とやってきて混沌とした状況だった,もっといえば一面では良いことに見えるが,別の面から見ると悪いことにも見えるというようなものが多くあったなあという意味です。株価は好調でアベノミクスは成功したかのように見えていますが,その裏側では働けども暮らしはよくならないという層が一定以上存在し,しかも増えているということが明らかになってきています。例えばこれから確実に必要とされている保育士や介護士などは低賃金で働き手もいないほどになっています。このような格差の拡大は世界中で治安の悪化やテロや紛争の原因となっていると言われています。一方でここ福岡では,人口は増加し続け,外国人観光客も全国的には前年比40パーセント以上増えて,街は明らかに活気づいています。

そして,このようなカオスな状況をさらにカオスにするような面白いニュースをインターネットからピックアップしたいと思います。それはInstagramで有名なGENKINGさんが雑誌やネットなどのメディアに対して「作られていて,リアルじゃない」と語ったことです(1)。これは,今まで日本で形作られてきた社会ってものが根本的に変わってしまったということを象徴するコメントに思えます。

スマホがここまで普及する前は,ラジオ・テレビでみんな同じ情報を得て,同じ話題を共有していました。小学校ぐらいのころの友人や家族との会話を思い出してみるといいでしょう。テレビの話や雑誌の話が多くの人に通じたんじゃないでしょうか。つまり共通の文脈が形成されていたのです。しかしスマホ以降の世界ではこのような共通の情報や話題というのは,あまりなくなってしまいました。そしてある意味制限(2)されていた情報の大きな流れがなくなり,小さな流れがそこかしこにできてしまい,またそれぞれの流れは色んな方向を向いています。私たちがそれぞれその小さな情報の流れに乗っているのだとすると,そこで見えている景色も全く違うはずです(3)。そうであるなら,お互いの情報を共有することはかなり困難です。そもそも文脈を共有しない多様な人たちが身の回りにいるという時代なのです。高野君の卒論で登場する深層的な多様性を理解することがより重要になっていることが伺い知れます。

さて,そのようなことを実感する一年となったのですが,ゼミではここ数年一貫して創造性志向(アントレプレナーシップとでもいいましょうか)とマネジメントの関係をテーマにしてきたつもりです。創業体験プログラムの取り組み,各自のプロジェクトやリーン・スタートアップの輪読はもちろんのこと,マネジメント・コントロールや管理会計を考える時も,どのように非日常性に対処し,それを活用していくべきかといった疑問を投げかけていました。種明かしのような伝え方になってしまってしまいましたが,是非そういった視点から今一度ゼミでの取り組みを振り返ってみてほしいと思います。

では,なぜ創造性志向が大事だと思っているかというと,それは冒頭で書いたよう混沌とした時代に生きていかないといけないからです。これまで当たり前にあった大きな流れが見えなくなり,あるいはなくなってしまった今,自分たちが能動的に流れを創り出したり,強そうな流れを見つけ乗ったりしていかないと生き残れないからです。いや,生き残れないというより,そう認識して前向きに生きないと,空に向かって唾を吐くだけのつまらない人生になってしまいかねません。何も経済的に成功したり有名人になったりわかりやすい成功を推奨しているわけではなく,自らが人生そして社会を選択し創っているのだという意識は持っていてほしいなと願う次第です。とはいえ,皆さんは私以上にソーシャルメディアに慣れ親しんだ世代でしょうから,言われなくても感じていることかもしれません。古臭い淀みに囚われないように前向き変化しながら生きていきたいものです。

面白い人生を,そしてたまにはそんな人生を共有させてください。これからもどうぞお元気で。

(1)福岡で開催されたイベントでのインタビュー記事です。引用元Tech Crunch 「Googleは使わない、SEO対策しているから——Instagram有名人のGENKINGが語った10代のリアル」 http://jp.techcrunch.com/2016/03/03/istagram-genking/ 2016.3.14閲覧

(2)陰謀論ではなく,限られた発信者からの少ない情報が広く拡散することによって大きな流れが作られており,それ自体には善悪は存在しません。そうなるという話です。

(3)こういう前提に立つと金子君のステマに関する卒論が味わい深いですね。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください